「自分にもしものことがあったとき、家族でもめてほしくない」
そんな思いから、遺言書の準備を考える方が増えています。とても素晴らしいことです。
ただ、ここで一つ、見落とされがちな大事なポイントがあります。それは 「遺言を書いた後、誰がその内容を実現するのか」という問題です。
遺言書は、書いただけでは何も起こりません。「長男に自宅を相続させる」「次女に預金の半分を渡す」といった内容を、実際の手続きに落とし込む人が必要です。銀行へ行き、法務局へ行き、書類を揃え、相続人に説明する。この一連の作業を担うのが遺言執行者です。
そして、遺言執行者を遺言の中で指定しておくかどうかで、残された家族の負担はまったく違うものになります。
遺言執行者がいないと、何が起こるのか
遺言執行者を指定していない場合、相続人全員で協力して手続きを進めることになります。これが、思った以上に大変です。
たとえば、銀行口座の解約一つとっても、原則として相続人全員の署名と実印、印鑑証明書が必要になります。不動産の名義変更も、相続人全員の協力が前提です。一人でも非協力的な人がいたり、連絡がつかない人がいたりすると、そこで手続きが止まってしまいます。
遺言の内容に不満を持つ相続人がいた場合、手続きを意図的に遅らせるようなことも起こり得ます。「ハンコをついてくれない」「書類を返してくれない」──こうした事態は、決して珍しい話ではありません。
遺言執行者がいれば、こうした手続きを一人の責任ある立場の人が一括して進めることができます。相続人全員のハンコを集める必要はありません。
遺言執行者には、こんな権限がある
民法では、遺言執行者は「遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する」と定められています(民法1012条)。
具体的には、預貯金の解約・払い戻し、不動産の名義変更、株式の名義書換、貸金庫の開扉、財産目録の作成と相続人への交付、認知や推定相続人の廃除などができます。
しかも2019年の民法改正で、遺言執行者の権限はより明確になりました。預貯金の払い戻しや解約は、執行者単独の権限であることがはっきり条文に書かれています。
誰を指定するか ここが思案のしどころ
「じゃあ、誰を遺言執行者にしたらええの?」
選択肢としては、家族の中の一人、信頼できる友人、行政書士・弁護士・司法書士・税理士などの専門家、このあたりが現実的です。
家族を指定する場合、費用はかかりませんが、他の相続人との関係でやりにくさが出ることがあります。「お兄ちゃんばっかり情報を握ってる」といった不満が、執行者となった本人への風当たりにつながるケースです。
一方、専門家に頼めば中立的な立場で粛々と手続きを進めてもらえます。費用はかかりますが、家族間の感情的な対立を避けやすいというメリットがあります。
このあたりの選び方については、シリーズの第4回で詳しくお話しします。
遺言執行者を指定する=家族への最後のプレゼント
遺言を書くというのは、財産の行き先を決めるだけの作業ではありません。「自分が亡くなった後、家族にどう過ごしてほしいか」を形にする作業です。
財産の分け方をきちんと決めても、その実現のために家族が何ヶ月も平日に役所や銀行を回って疲れ果ててしまっては、本末転倒です。遺言執行者の指定は、家族への最後のプレゼントだと考えてもいいくらいだと思います。
次回(第2回)は、視点を変えて「遺言執行者に指定された人へ 断ることもできる?引き受けたら何をする?」をお届けします。
姫路市飾磨区にて、ふじか行政書士事務所の開業準備を進めています。相続・遺言まわりのご相談に対応できるよう準備中です。開業後はお気軽にお問い合わせください。

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